入院して一番びっくりしたことは、
突然おばさんが素っ裸になり頭にパンツを被って暴れていることだった。
すぐに看護婦がとんで来て無理やり押さえつけ、どこかに連れて行った。
2,3日そのおばさんを見なかったのでたぶん「おり」の中に入れられたのだろう。
今日も誰かの叫び声が聞こえる。
私は恐ろしくて自分のベットの中で震えながら布団を被っていた。
もうこんな所にいるのは嫌だ!
2重のドアが空いた!脱走しよう!!
私は全力疾走でドアに向かった。
でもすぐに大量の看護婦に捕まった。自分の部屋に連れて行かれて
ベッドに縛られた。ウエストに太いひも。私が暴れるので、手首足首にもひも。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
私は訳のわからない叫びをした。
すごい叫びだったらしく、別室の人が見物にくるくらいだった。
はぁ。はぁ。叫び疲れた私はぐったりした。そうなると看護婦はひもを取った。
病棟に入りたての人は、この生活に耐えられなくなってよく脱走を試みる。
しかし、ほとんど駄目。取り押さえられ、ひも。または注射。またはおり。
そんなのを何度も見ているとここからは逃げられない、と諦める。
死んでるような日々。
母は毎日見舞いに来た。
元気?何か持ってきてもらいたいものはある?
元気も何も。。持ってきてもらってもほとんど取り上げられるし。
母はよく泣いた。
あなたが赤ちゃんの時、あんなことがあったから。すべては私のせいだ、と。
現在の病気と幼い頃の事件との関係はわからない。医者もわからないと言う。
母はヒマだろうからと大量の「コボちゃん」を買ってきた。
入院期間中、私は「コボちゃん」を一心不乱に読みふけった。
不思議なのは、この病棟に見舞いにくるような者は母ぐらいしかいないということだった。
「姥捨て山」。そんな言葉が私の頭に思い浮かんだ。
この病棟の患者の家族は何をしているのだろう?
重症患者を病院に入れてせいせいしてるのだろうか?
看護も、まわりの差別もない、のびのびとした生活を送っているのだろうか?
わからない。私は子供だもの。でも精神科の病気は家族の理解というのがとても大切だ。
けっこう高齢の方も多い。ここで死んでしまうのだろうか?
私は子供なりにも心が痛かった。