歴史に埋もれた独立国 −テキサス共和国

 

テキサスは現在、アメリカ50州の1つであり、もちろん、独立国ではありません。しかし、1836年〜1845年の10年間、独立した「テキサス共和国」だった時期があるのです。こうした歴史的経緯もあって、テキサスの場合、必ずといっていいくらい、公共施設や観光スポットには星条旗と並んでテキサス州旗が掲揚されています。これくらい「州」に対する愛着が強く、「独立心が強い」と言われるテキサスですが、その併合の過程には、アメリカの西部開拓の歴史の一端が垣間見られます。


1821年にスペインからメキシコが独立した際、旧スペイン領であったテキサスはメキシコ領となることを、アメリカは国際的に承認しています。しかし、当時、テキサスにはメキシコ人はほとんど住んでおらず、メキシコ政府による統治能力はあまりなかったといえます。

ちょうどこの頃、アメリカ側の西部開拓が進展すると、テキサスの新住民の間で、革命後のメキシコ独裁政権に対して自治を求める動きが強まります。メキシコ政府はこうした動きを軍事的に抑えようと、1835年にサンアントニオに兵を派遣しますが、テキサスの義勇軍はこれを破り、有名な「アラモの砦」を奪って拠点としました。形勢を挽回すべく、メキシコ軍は4000人の大軍を送り、再度テキサス義勇軍を攻撃します。この、アラモの砦攻防戦の史実が、ジョン・ウェイン主演の映画「アラモ」のモチーフになっているものです。

義勇軍側も善戦しますが多勢に無勢、アメリカに送った援軍要請も間に合いそうにありません。義勇軍の指揮官トラビスはついに敗戦を覚悟し、地面に剣で線を引き、自らに従って死ぬま戦い抜く者のみが、この一線を超えるようにと呼びかけます。結果、そこにいた189人のうち、1人を除く愛国者達全員が、指揮官と共に戦死する道を選びました。翌日、メキシコ軍がアラモ砦に攻め入りテキサス軍は全滅しました。




   (地図)1840年のアメリカ大陸領有状況

 ・明るい緑色:テキサス共和国(旧メキシコ領)
 ・暗い青色:アメリカ領
 ・クリーム色:アメリカ領だが州未編成区域
 ・薄茶色:メキシコ領
 ・水色:アメリカ・イギリス共同管理
  (メイン州北部は境界未定)


Texas State Flag  

テキサス共和国旗(左:現テキサス州旗)は、チリの国旗(右)とそっくり…。どちらもアメリカの星条旗をモチーフにしていますが、チリのスペインからの独立は1818年、テキサスのメキシコからの独立は1836年です。
州の旗にデザインされた星から、テキサス州はThe Lone Star State(ひとつ星の州)とも呼ばれます。



その1ヶ月半後、"Remember Alamo"の掛け声の下、サム・ヒューストン率いるテキサス軍(実質的には、アメリカ南部諸州からの義勇軍により結成)が、メキシコ軍を壊滅しました。これを機にテキサスは独立し、1845年、「軍事的・経済的理由」からアメリカ合衆国に併合されました。

この独立に至る過程、アラモの砦の「美談」もあって、いかにも「メキシコの圧制に対するアメリカの自由主義(イデオロギー)の勝利」といった歴史である印象を受けます。勿論、そうした面もあるとは思いますが、別の角度から見てみる必要もあるかもしれません。すなわち、アメリカのテキサス開拓が奴隷使用を前提とした大規模農業を背景としていたのに対して、メキシコはこの頃奴隷制を廃止しており、アメリカからの移民としては、「奴隷制を認めないなら独立する!」という動きとなった…という説もあります。

独立した「テキサス共和国」ですが、当時、生粋のテキサス人がいたわけではなく、義勇軍の主体となったアメリカ南部諸州の出身者が政治的・軍事的な指導層でありました。彼らは、合衆国加盟への働きかけを強め、10年後にそれを実現します。テキサス独立を認めたメキシコですが、アメリカへの併合には猛烈に反発し、当時メキシコ領土だったニューメキシコ(ただし、住民がほとんどいなかったこともあり、元来メキシコ政府の関心・影響力はそれほど大きくなかった)の領有問題もあって、両国関係は著しく悪化、ついには戦争となりました。これが1846年に開戦した米墨戦争です。

モルモン教徒などの義勇兵を主力とするアメリカ軍はサンタフェ(ニューメキシコ)に無血入城しました。戦闘が回避された理由としては、メキシコ側守備隊が降伏勧告を受け入れたとする説と、指揮官が買収されたとする説があります。いずれにせよ、ニューメキシコはアメリカの支配下となり、1850年の戦後の米墨間の講和条約で、メキシコもアメリカの領有を認めました(州への昇格は1910年)。

今でもメキシコ人の中に、テキサスからカリフォルニアにかけての広大な地域は、もともと自分達の領土だったのに…という思いがあるようです。

 


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