郵政民営化の本当の意義
 2005年8月、郵政解散の1週間後に書いた筆者の郵政民営化論です。

 おそらく日本史にその名を残すであろう総選挙が05年9月11日と決定されました。筆者は小泉総理支持、そして郵政民営化を中心とした日本国構造改革支持者の一人として、小泉総理を微力の全力を挙げて応援いたします。
 とはいえ、感情的な訴えかけは苦手な筆者です。ここは一つ、いつものように理屈を積み重ねて読者の皆さんにこの総選挙における争点と意義を出来る限り客観的にお伝えすることで、筆者の主張を理解していただこうと思います。
 論点は大きく二つだけです。

 1.郵政民営化の本当の意義とは何か
 2.なぜ、民主党を選んではいけないのか

 これまで当サイトの中でこの問題を真剣に取り上げたことはありませんでした。今回は徹底して真摯に取り上げたいと思います。まずは1)からです。


1.郵政民営化の本当の意義とは何か

 小泉首相は、8月8日の記者会見の中で次のように述べています。

「私はいまだに郵政民営化は、本当に行財政改革をするんだったらば、将来、簡素で効率的な、余り政府が関与しない、役所の仕事を民間に開放しようという主張を展開するならば、この郵政民営化はしなければならないものだと思っております。」

 いわば、行財政改革の入り口として郵政民営化が位置づけられるというものです。この主張そのものは全くの正論であり、疑問の余地はありません。ただし、ちょっと言葉足らずのところがあります。上記の内容だと、行財政改革=役所の仕事を民間に開放することだけ(イコール郵便局を潰すことだと言う反論を招く)と読まれてしまう危険性があります。
 郵政民営化においては、主要な事業領域が二つあります。それは
 「郵貯・簡保の金融事業」「郵便局のルーチンである郵便配達事業」です。通常、郵貯・簡保・郵便は「郵政三事業」と称されます。
 この二つを混同してはいけませんし、郵政改革の本質は前者の「金融事業改革」にあります。反対派は常にこの二つの主題を恣意的に混同し「過疎地の郵便局がなくなるぞ!ユニバーサルサービスに反するぞ!国民が困るぞ!」とやるわけですが、これに乗せられてしまったらあなたのメディアリテラシーはマイナス30点です。
 まずこの数字を見てください。

 郵便貯金残高:227.3兆円 VS 4大メガバンク(UFJ・東京三菱・三井住友・みずほ預金残高:225.9兆円
 簡易保険総資産:121.9兆円 VS 日本生命・第一生命・明治安田生命・住友生命総資産:121.3兆円
 日本の個人金融資産 1,400兆円
  (郵政民営化 〜何がどうなるのよ〜 サイトより転載)

 日本の大手銀行・保険会社全部を合わせたのと匹敵する金融資産を持つ郵政三事業。両方を足すと約350兆円であり、個人金融資産の実に25%を占めているのが郵政の金融事業なのです。

 1)財政投融資と言う呪縛からの開放
 
 金融事業と言うのは通常運用されることで利回りを生み出します。株を買ったり、先物取引をしたり、企業に貸し付けたりするわけですね。では郵貯・簡保で集められている350兆円の資金はどう運用されているのか?
 これを説明する鍵が「財政投融資」と言う仕掛けです。百聞は一見に如かず、下の図を見て下さい。  

 財政投融資と言うのは、旧大蔵省の資金運用部と言うところが郵貯や年金積立金の資金を集め、運用するという仕組みです。この運用先がクセモノだったわけです。左の図では「特殊法人等」と書かれている運用先、その実態は現在は民営化された日本道路公団やら、○○開発機構やら、日本○○振興協会やら、要は官僚の天下り先で、ロクな経営もせず資金投入先としての適格性を疑われる所ばかりだったわけです。融資に関してはかつて審査らしい審査もなく、資金運用部のさじ加減一つに任されており、これが利権の温床となっていたわけですね。当時も今も財投が「第2の国家予算」と呼ばれるのは、こういうカラクリが背後にあったわけです。

 考えてみてください。郵貯や簡保に虎の子の貯金を預けている国民の大部分は「国が運営する郵便局に預けてるから大丈夫」と思っていますし、実際自分たちの預金が郵便局の裏の金庫にでもしまってあるようなイメージを持っている人はまだまだたくさんいると思うのですが、とんでもない!貴方たちの預金は採算性の全く取れない特殊法人に湯水のように投入されてきたのです。その大部分が不良債権化しているという物騒な噂も未だに囁かれているわけです。

 さすがにこのような批判がかなり大々的に展開されるようになってきたため、財務省では左図の下にあるような形に制度変更を行いました(2001年)。かたちの上では資金運用部が廃止されて、特殊法人が本当に必要な資金を金融市場から調達するようにして(財投機関債)、財政融資資金からの資金流入を最小限に抑えるようになっております。
 しかしここにはしっかり抜け穴が用意されており、「業績悪化などから財投機関債を発行できない状況にある特殊法人には、政府保証債の発行を認め、さらに、財投機関債・政府保証債においても資金調達が困難な場合には、政府が財投債を発行して調達した資金を融資する措置が採られ」ることになっています。結局、普通の銀行なら融資などしないような劣悪法人にも、お金が流れる仕組みは温存されてしまっているのです。
 郵政が民営化されることにより、この350兆円は完全に市場の原理下、もっとはっきり言うと民間銀行と同じ立場に置かれます。これだけの巨額資産が一般市場にあまねく還流されるわけです。

 郵政改革と言う「金融システムの改革」が実行できない限り、その先にある行財政改革、具体的には医療改革や既成改革,たなざらしになっている年金改革,あるいは国と地方の税収のあり方を根本的に変える三位一体改革などは実現するはずがないのです。小泉首相はそのことを言っているのです。「郵政民営化よりもっと大事なことがある」と(ブラフではなく)のたまっている人たちは、そこを理解していないか理解しようとしていない(目をそむけている)のです。

 2)資金還流によるメリットとは
 
 さて、「350兆円が市場に還流される」といっても、それだけではメリットが分からん・納得できんと言う意見は実に多く聞かれます。特に多いのが「米国ハゲタカファンドに全部吸上げられるのではないか」という意見です。
 これの是非を問うのはもう少し後ろでやるとして、「市場に資金が還流されること」の具体的なメリットをもう少し列挙しましょう。

■国の借金漬け体質の改善につながる=財布の紐をきつくする
 実はこれが郵政民営化の最終目的といえます。現在日本国の歳入(主に税収)は40兆円/年、歳出はその実に倍の80兆円です。差額の40兆円はどうしているのか?国債を中心とした借金でまかなわれており、その国債の財源の多くが、実は上記の郵貯・簡保資金(特に財投国債)なのです。国民の郵便貯金から集められたお金が、そのまま(預けた本人=国民には殆ど説明なく)国の借金に使われているのですよ?こんなバカな話があるでしょうか。
 今回の郵政民営化案では、政府保証がなくなることで郵貯・簡保の資金の減少を図ろうとしています。国は「打ち出の小槌」に近い郵貯・簡保資金を減らされることで、自律的に財政の健全化に向かうことが出来ます。
 民主党の岡田代表などは「歳出削減が先だ。国家公務員の給料を2割削減して10兆円歳出を減らす」などと相変わらず中学生の作文でも書かないようなことを思いつきで言っているようですが、仮にこの10兆円削減がうまく行ったとしても(詳細は省きますが、実現は100%ムリです)、10/350ですよ?歳出の削減は当然必要ですが、それよりはるかに重要なのがこの「入り口を抑える」と言う行為なのです。

■民営化された郵政事業の収益改善により、国の歳入増加に繋がる
 現在の郵政公社は「公社」であるため納税義務がありません。郵便事業と郵貯事業二つをあわせると売上6兆円・経常利益約1兆3000億円の超巨大企業が、税金を払っていないわけです。もちろん民営化すれば郵政公社は市場原理に晒されますから、一時的には業績は落ち込んで黒字も減るかもしれませんが、JRやドイツポストの例を見ても分かるとおり民営化によって通常は経営状態は改善されサービスも向上します(郵便局の数が増えると言う意味ではない→後述)。新生民営化郵政会社も経営状態が安定すれば、何せ純利益が1兆円ある会社ですからかなりの法人税収が期待できます。
 それ以上に、民営化されて株式公開されれば、政府はこれによりおそらく数十兆円の売却益を得ることで、国債償還に多少なりとも当てられるのです。これは非常に大きい。
 もう一点、郵政民営化が民間事業者に及ぼす影響も無視できません。現在郵政公社は公社法と言う法律の管理下にあります。この法律下では、郵政公社は民間企業と提携は出来てもM&Aを行うことが出来ず、特に中心となる物流事業において「自分の足」を持つことが出来ません。郵政公社自体は現在完全に民営化をにらんで、小口物流で喰っていく腹積もりを固めています。そのために日通,日立物流,山九といった有数の大手企業と組んで、具体的にはヤマト運輸とガチで勝負をかけていこうとしているのですね(確かにノウハウで後れを取っている部分は否めませんが)。郵政公社の持つ巨大な市場・物流量を一般企業が獲得するチャンスが目の前に転がっているわけです。筆者は一応流通・物流が専門なので、この動向も非常に気になるところです。民営化が頓挫するとこの辺の話も雲散霧消してしまいます。

 以上の話は、国民に具体的に見える形でのメリットをもたらす話ではありません。なので「国民は郵政問題への関心が低い」ということになってしまうのですね。これは、国民である我々が真剣に反省すべきことでしょう。国の借金とは国民の借金であり、これは将来的な増税や社会保障のレベル低下にダイレクトにつながります。だから「郵政を取っ掛かりとして、国民は国の財政問題にちゃんと関心を持たなければならない」と言うのが筆者の意見です。
 と言うより、もはや増税・社会保障ダウンは絶対避けられないのですね。普通に日本で暮らしている限り。筆者はいずれ消費税は10%以上になるし、年金も多分殆どもらえないし、医療費の自己負担も4〜5割くらいになるだろうと思っています。しょうがないんですよ、少子高齢化なんですから。これを乗り切るには出来るだけ長く働くか、税金や物価の安い海外に逃げるしかありません。このまま手をこまねいていても、バラ色の日本未来と言うのはほぼありえません。そのくらいの危機感を持って生活することが、いまの日本人に求められているのだと思います。これまでの甘え(サービスは手厚く・税金は安く)のツケが回ってきていると言うことです。
 このように考えると、ロクに財源も考えずに「高速道路無料化」と言っていた民主党がいかにお花畑かが分かる…あ、これは次回の話題だった。

 3)過疎地の郵便局は切り捨てられるのか

 この問題についても触れておく必要があるでしょう。結論から言うと、過疎地の郵便局がなくなることはありません。もちろん新しい民営化会社にとっては負担になるのが過疎地の郵便局ですが(そういえば、石垣の竹富島にもきれいな郵便局があったなあ…遠い目)、現行の法案では「過疎地の郵便局は当面廃止せず、長期にわたり郵便・保険会社が業務委託する」ということになっていまして、長期と言うのは10年がメドになっています。10年で状況が変えられない問題など、殆ど存在しないでしょう。

 むしろ考えるべきは「都心部の郵便局」です。左のマップは都心の郵便局の過密度合いを表すときに(多少の揶揄をこめて)よく引き合いに出されるマップですが、これ郵政公社のHPから拾ってるんですよね。千代田区周辺・皇居の東側の状況です。いくらなんでも、こんなに郵便局はいりますまいて。しかもこのうちの8割程度が特定郵便局ですから、この一つ一つに年収1500万円の郵便局長がいる…と思うと、確かに腹が立ちます。
 整理をするとしたら間違いなく都心部の郵便局です。そしてそれは、特定郵便局長の既得権剥奪になりますから、郵政族や全特があらゆる手段を使って民営化を阻もうとしているわけですね。

 4)郵貯・簡保の350兆円はアメリカハゲタカファンドに食われるのか

 いつも思うのですが、こういう根拠の全くない、言い方だけは刺激的な理屈でものごとに反対しようとする人の気が知れません。よしんばハゲタカファンドとやらが存在するとして、10万8千光年譲ってそれに350兆円が喰われたとしても、預金者にメリットがあればそれでもいいんじゃないの?極端に言えばそういうことですよ。筆者は過去2ちゃんねるで同様の論争を挑んだことがありましたが、満足な回答は全く得られませんでした。要するに、言ってるほうも自分の言っていることなど分かっちゃいないわけです。
 この問題については私がごちゃごちゃ言うより、ブログ「Irregular Expression」が参考になると思います。主要部分を抜粋します。

郵貯と保険の旧契約は(郵政公社の期間に集めた郵貯・保険の約340兆円は)、政府保証を付けたまま公社継承法人に引き継ぐ。運用は郵貯・保険の新会社が行うが、公社勘定の運用から生じた損益は新会社に帰属させる。例えば郵政公社が民営化されて、その民営化後の会社を丸ごと外資が買ったとしよう(←この前提自体為替の問題やらなんやらでかなり無理があるけど)、でもその会社の手元に340兆円は無い。これをどうやってアメリカが奪い取るの?公社継承法人に強盗でもしに行くか?そんなの無理だろ。

・一方、この公社継承法人が保有する340兆円は郵貯・保険の新会社が運用する。しかしこの運用から生じた損益は新会社に帰属するので、例えば新会社を買い取った外資がデタラメな運用をしたとしても、公社継承法人の勘定にある340兆円が霧のように消えることは有りえない。それどころか、デタラメな運用によって生じた損は新会社に帰属するので、新会社を買収した外資は自分で自分の首を締める事になる。こんな自殺行為誰もやらない。逆にちゃんと運用して利益を出して税金を納めてくれるなら日本にとっても全くマイナスじゃない。


・この議論をするとすぐ「長銀がハゲタカ外資からどんな目に合わされたか!」と恐怖心を煽る人がいるが、長銀は破綻していて誰も買い手がつかない状況だった訳で、今の郵政三事業と比較する事がナンセンス。逆に言えば「買い叩かれるような状況」まで放置しようとしている郵政民営化反対派の方がよっぽど外資を利する可能性が高い。


 郵政民営化の意義、いかがだったでしょうか?ご理解の一助となりましたでしょうか。
 郵政民営化は自分で学ばないと本質を理解できない改革テーマだと思います。筆者自身、このコンテンツを書くためにそれなりに勉強をしています。多くの国民はそんなめんどくさいことはしないでしょう。小泉総理の嵐のような記者会見に男気を感じて応援している人も多いでしょう。
 それはそれで構いません。しかし、筆者はそういった人の中から一人でも多くの人が「郵政民営化→国の財政問題」に目を向けて、自分で学んで自分なりの見識を身につけて、それに従った行動を取れるようになって欲しいと願っています。選挙の投票行動も変わるでしょうし、何より人生設計に臨む姿勢が変わるでしょう。国は変わっています。かなり強引にではありますが、小泉純一郎と言う稀代の宰相が国を変えています。我々国民も変わっていかないといけないのです。


<参考文献・サイト>
 日本経済新聞(8月6日・9日朝刊)
 日本郵政公社ホームページ
 Irregular Expression
 なぜ、郵政公社を民営化すべきなのか
  ほか多数
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