個人山行報告書
<日程> 2013/10/11~14
<山域>北アルプス 錫丈岳
<メンバー>百武、福田、伊藤(美)、伊藤(聡)、三浦
<地質>
約1億年前~6500万年前に噴火した火山の岩石(デイサイト・流紋岩類)
地質年代 : 後期白亜紀
岩相 : 非アルカリ珪長質 火山岩類
と産業技術総合研究所 地質調査総合センターの公開資料には記載されている。
岩質は固く安定していた。左方カンテルートは浮き石も少なく快適に登れたいいルートであった。
2013年10月12日(土)
午後5時名古屋を出発。午後8時に新穂高温泉の駐車場に到着した。
途中の道路走行中に火球(大型流星:母体がハレー彗星のオリオン座流星群の一つだったのだろう)が観察できた。
満天の星で晴天が期待できたのだが、高山から平湯温泉の方面に向うと途中から雨が降り始めた。
新穂高温泉に到着時点で本降りになってしまったので駐車場で車中泊して、翌朝早朝に先発隊と合流する計画に変更してメーリングリストに情報を流した。
。
2013年10月13日(日)
午前4時起床。満天の星。快晴。午前5時に新穂高温泉の駐車場出発。午前6時半に錫杖沢の先発隊と合流した。
大声で「百武さん!」と呼んで声を聞くまでどこにテントが張ってあるのか判らなかった。
可哀想に平坦な場所はすでに他のグループに占拠されていて、岩のごつごつした沢の上流にテントが張られていた。
前衛壁左方カンテを登攀する。
第1パーティ:伊藤聡・三浦
第2パーティ:福田邦男・伊藤美紀・百武弓弦
の2パーティに別れて登った。
●1ピッチ(III)
(失敗談1)伊藤聡リード。ザイルをさばいてビレーの準備をした。
しかし確保器をザイルが通過する際にザイルがくるくると回転してキンクしてしまいスムーズに確保器をザイルが通過しないので困った。
キンク解消法を考える必要がある。
●2ピッチ(III+)
三浦裕リード。終了点はピナクル。岩壁にアンカーボルトもある。
しかし先行パーティが使っていたので奥の広いテラスまで移動して檜の幹にアンカーを作った。
岩壁から回り込んだ位地のためにコールが届き難い。笛で完了(・−)の合図を送った。
渋滞になったけれども、朝日が当たり焼岳〜奥穂高ジャンダルムまでの展望が開けたピナクルの滞在は快適だった。
●3ピッチ(V)
(失敗談2)
伊藤聡リード:登り始めてすぐ「難ずい!」の声が聞こえた。オーバーハングを乗り越える手順を考えていたのだろう。
私の位置から見えなかったが、手前の狭いリスに、小型カムをセットして、聡さんはその核心部を通過したようである。
実際に登ってみると核心部の上にはガバがあり案外楽に登れた。
しかし私はそのハング直前で安易にカムを右手でちょっと掴んでA0気味にバランスを取ろうと思った。
その瞬間にカムがリスから外れた。不覚にもバランスを崩して、そのまま体が岩から剥がれてザイルがビローンんと伸びて20〜30cmぐらい滑り落ちた。
セットされているカムが突然外れるとは、まったく予想しなかった。
カムは0.1番ぐらいの超小型カムで使い古されていたが、摩擦力十分のはずだ。
聡さんがセットした時に下方向に引いて完全に固定されることを確認して進んでいる。
ただしそのカムは登攀方ルートより片腕長さ分だけ右側に離れたの位置にセットされていた。
そのため私がザイルを付けたままカムに接近した際に、カムが横方向に引っ張られた。
カムにかかる力の角度が直下から横方向に変化した際に固定が緩んでしまった可能性がある。
正確な理由は不明だが、思いがけずカムが簡単に外れてしまったことには驚いた。
●4ピッチ(IV+)
伊藤聡リード:チムニー状の岩を登る(容易)。
ここの終了点も渋滞して、なかなか先に進めない。
●5ピッチ(IV+)
伊藤聡リード:難なく登攀。ここの終了点が「注文の多い料理店」との合流点になる。
広いテラスでであるが「左方カンテ」と「注文の多い料理店」の2ルートからの登攀者で満員になる。
次々にそれぞれのルートへ懸垂で引き返していった。
私たちは渋滞待ち約1時間ですでに午後1時を過ぎていたが次のピッチを登ることにした。
●6ピッチ(IV+)
伊藤聡リード:最初のチョークストーンまでの一手がなかなか難しく、A0で登った。
先行した中年の女性と男性のペアは、フリーで簡単に通過したのを見ていたのだが再現できなかった。
実力の差は、腕力よりも岩の弱点を見抜く力の差が重要に思う。
目前に見えているスタンスに足を掛けて登るだけでは初心者だ。
周囲の岩を利用して、臨機応変に背中のプッシュも使って体全体のバランスで岩を登る能力が問われる。
解法は多数ある。その中でもっともエレガントな解法を見つけ出す所に楽しさがある。
数学問題が「解けた!」という感覚と岩を「登れた!」という感覚には少なからず共通性がある。
解けなければ駄目である。登れなければ駄目である。
しかし計算だけで解けても苦しいばかりで楽しくない。論理的にエレガントに解けた時の喜びは大きい。
そのすぐ上の垂直に近いフェースも面白い場所だった。そのままフェースとして単純に登ることも可能である。
しかし右側背面側の岩に立派なスタンスがたくさん見えた。
この岩も上手に利用しながら登る野心が湧いた。
確保されているのでちょっと自由な気分で体を回転させて登ることができた。
「その格好で止まって!写真撮るから…」などと下から声を掛けられた。
このムーブはモデルがエレガントとは言い難いのが難点であった。
そこから高度感があるスラブに出る。
カンテ右側のエッジに手をかけて思い切ってスタンスに乗り込んでクリアーして、ボルトがしっかり打ち込んである終了点のテラスに到着した。
すでに午後3時半を過ぎていて時間切れである。最終ピッチを残してそこから直下へ50m3回の懸垂下降を開始した。
●(失敗談3)
先行して懸垂下降する聡さんが一方のザイルを束ねて腰につけて、小出ししながら懸垂下降する技術を試みた。
もう一方のザイルはセカンドの私が少しずつ小出しにして半分まで出した段階で、残りのザイルを下に落とすことでザイルが途中でひっかかることが予防できる予定だった。
ところが後から投げ下ろしたザイルが、途中でひっかかってしまったのである。
聡さんは登り返してザイルを回収しようとしたそうだが、逆に引っ張ったらうまく残りの半分も落ちてきたという。
ザイルは投げ下ろして、下降しながらひっかかりを処理した方がよっぽど確実だと感じた。
● 左方カンテとの合流点の横の下降点のテラスには5人が立つことが限界。
● その下の「注文の多い料理店」の下降点のテラスはさらに狭い。
4人が立つのが限界で、最期に降りてきた百武さんはテラスに立つ余裕がないので、ハンギングビレ–の形で最後の懸垂下降でザイルの準備をしてそのまま下降してもらった。
3回連続50 mの懸垂下降を5名が終えた頃に日没となりヘッドランプのスイッチを入れた。
半月が青空に輝き始めていた。真っ暗な中、左方カンテの取り付き部を探しながらガレ沢を下ったがなかなか見つからない。
聡さんが先頭になって動物的感覚で合流点の踏み跡をみつけてくれた。
森中のトレースは問題ないが、徒渉点の直上の岩場のルートが暗闇の中で読めなくなった。
濡れている岩場で危険を感じた。慎重にライトを照らしてルートを確してゆっくりと下った。
後発隊の伊藤聡さんと三浦の2名はこのまま下山し名古屋に帰った。
先発隊の百武弓弦さんと福田邦男さんの2名は14日に「注文の多い料理店」を完登して完全燃焼したとのことである。
テントで一日レストした伊藤美紀さんと合流して3名で下山した報告があった。
私的感想
錫杖岳の左方カンテルートは岩がしっかりして、安心して登れるとてもいいクライミングルートである。
今年は暖かく、紅葉が始まったばかりだったけれども、焼岳から奥穂高方面までの眺めは素晴らしい。
眼下に広がる大森林と、そこから切り立つ直立の岩山の威容は圧倒的だ。
登った岩の雰囲気は御在所の中尾根を彷彿させる。錫杖岳にを登って御在所の素晴らしさを再認識した。
まとめ
1)ザイルのねじれはキンクを起こして操作しずらい。
2)カムは力をかける方向で簡単に抜ける場合がある。
3)懸垂下降時のザイルダウンは単純に落とす。