個人山行報告書
<日程> 2013/4/13~14
<山域>中央アルプス 宝剣岳
<メンバー>山田、伊藤(聡)、伊藤(美)、福田、三浦

<山行記録>
2013年4月12日(金)午後9時45分名古屋を出発。駒ヶ根の駐車場に幕営して一泊。満天の星が美しい。
2013年4月13日(土)快晴。午前7時15分始発の駒ヶ根駐車場のバスに乗る。
千畳敷カールまでゴンドラで一気に登り、そこから雪山の登攀が始まる。
極楽平に向う先行パーティがカールの中央の凹部をジグザグに極楽平に向けて登るトレースが見えた。
雪面を切るトレースは雪崩を誘発する可能性がある。極楽方面に向かうのは止めて、サギダル尾根にルートを変えた。
尾根側は急に新雪量が少なくなり、表面から10-20cm下にある氷が顔を出した。アイゼンをしっかりと蹴り込まないと滑る。
人が歩いても滑る斜面に積もった雪がどのような動きを見せるかは容易に想像できる。

(注意1)表層雪崩の危険性:
カール地形には雪崩が集まる。雪崩の流れがどのようなルートを通るかという地形的概念を持って、雪崩の流れる道を避けるように登攀ルートを選択するべきである。
雪崩を避けるには尾根筋がもっとも安全で、カールの中央の凹部はもっとも危険である。

サギダル尾根の取り付き点として、太めのダケカンバの幹をビレー点に選択した。
5名で2本しかザイルがないので、T.Yamadaがリードし、フォローは2組に分け、ザイル1本に2名ずつ繋がって登ることにした。
第1組はY.MiuraとS.Itho。第2組はM. IthoとK.Fukuda。それぞれ1本のザイルに繋がっている2人がほぼ同じ速度で登る。
サギダル尾根の雪面は固くしっかりしていたのでダブルアックスで快適に登れた。2ピッチでサギダルの頭に到達した。

サギダルの頭から西にも視界が突然開けて御岳が堂々とした姿を見せた。
周囲の岩の表面には強風によって雪が棘状に付着した所謂エビのシッポが発達して、美術作品的なオブジェになっている。
快晴微風、日射しが強い。レーションを食べ、テルモスのお茶を飲む。ここまでは天国であった。

(注意2)ビアフェラータ:via ferrata、イタリア語で鉄の路の意味<br>
サギダルの頭からから宝剣岳に至るまでの南稜の岩場は、ほぼ連続して鉄の鎖が設置されている。
PAS(パーソナルアンカーシステム)に2つの安全環付きカラビナをセットして、鎖にビレーする。
鎖が固定されている非連続点を通過する際には、掛けているカラビナをはずす前に、進行方向側の鎖に新しくカラビナをセットしてから、後ろ側のカラビナを解除する。
このようにして常に連続してカラビナを鎖にセットしてセルフビレーが途切れないように注意して安全を確保しながら進む。
T.Yamadaは後ろの私の所作を観察して「カラビナのゲートが半開きです!」と少しでも問題があれば指摘してくれた。
(感想:鉄の鎖にカラビナをセットするのに苦労した。鎖の太さはカラビナのゲートのいっぱいに開けてギリギリ入る程度だ。
ゲートが大きく開くカラビナならば操作は楽だろう。しかし小さなカラビナしかない場合には、鎖にカラビナを直接掛けるのではなく、短いシュリンゲを介して間接的に掛ける方法も可能だろう。)

(注意3)滑落の危険性
via ferrataが2〜3m途切れた稜線上の岩場をトラバース中に、隊員の1人が足を滑らせて転んだ。
まるで地獄に引き込まれるようにズルズルと東斜面に落ち始めた。
先頭を歩いていたT.Yamadaは「危ない!」と叫んで、その転倒者の服を掴もうと動いたが手が届かない。
幸いにも転倒者が手に持っていたピッケルを刺して転落はくい止めた。滑り落ちた足先にはもう50cmも余裕はなく、その先は断崖絶壁だ。
あと1秒でも滑落停止が遅れていたら、命は無かったかもしれない。
目前で発生したその光景は思い出すだけでもゾットする。その隊員はサギダル尾根の登りで疲れて、集中力を欠いていた、と反省していた。
そこから先は一人で登攀させるのは危険だ、と判断されてS.Itho がアンザイレンして進むことになった。

(注意4)急斜面でのつま先キック
急斜面のトラバースはサイドステップでしっかり蹴り込んで滑落しないように注意する。
さらに急斜面で確実にステップを作るためには、体を山側に向けて、靴のつま先を雪面にしっかり蹴り込んで一歩一歩確保しながら進む。(山田利之君からの指導)

(注意5)確保器を落とす事故
宝剣岳の穂先に到達した後の下山路で懸垂下降した。隊員の1人が懸垂下降に手間取って、ザイルをセットする際中に確保器を落した。
S. Itoが拾いに行って回収できた。落した本人は冬山用の手袋は借り物で、大きさが合わないので操作が難しかった、と弁解していた。
絶対に落さない工夫をしておく必要がある。

(注意6)懸垂下降中の体のバランス
隊員の1人が懸垂下降の途中で体勢バランスを崩して岩から足が外れて体がザイルにぶら下がった状態で回転して、背中から岩に当たった。
振られた幅が小さかったので身体に傷はなかったけれども、もし大きく振られて岩に激突したら大怪我をする。
つねに自分の体に作用する力のモーメントを予想して意識的に振られながら下降する必要がある。

(注意7)懸垂下降したザイルの末端の固定
前述のように、下降の終了点は開始点の鉛直方向から少しずれていることが多い。
ザイルは物理法則に従って鉛直に垂れ下がる性質があるので、最後に降りた登山者がもしザイルを離したら、そのままザイルは、鉛直方向に垂れ下がる。
ザイルの末端が空中に逃げ出して回収が難しくなる可能性がある。
そのようなトラブルを避けるために、懸垂下降した直後にザイルの末端は終了点付近の支点や自分の体に結び付けて固定しておく。

(注意8)滑落停止姿勢の必要性
隊員の1人が懸垂下降を完了してザイルを外した直後に転んで仰向けでツルツルと滑り台のように1〜2m滑った。
T.Yamadaは「危ない!」と叫んでその側に飛んで行った。
滑った隊員は幕営用のテント類を入れた70Lザックを背負っていたので身を翻して滑落停止姿勢を取ることが難しかったのか?
仰向けのまま楽しそうに滑っていた。幸いにも平坦だったので自然に止まった。
しかしT.Yamadaから「何やってんの!絶対に滑っちゃ駄目!」と叱られていた。稜線上で滑落は深刻な事故に繋がる。
滑ったら反射的に滑落停止姿勢を取る心構えが必要だろう。

(注意9)ロアーダウンザイルの末端の処理
ロアーダウンをさせる時にザイル末端は、8の字などで結んですっぽ抜けを予防する。

(注意10)紫外線の危険性<br>
唇は皮膚から粘膜に移行する粘膜側の組織でメレミン色素細胞がないので紫外線が深達しやすい弱点がある。
紫外線防止用のリプクリームの使用を薦める。

午後4時10分、宝剣岳を超えた所の小屋に到着。そこで宿泊組(T. YamadaとK.Fukuda)にザイルを渡し
下山組(S. Itho、M.Ito、Y.Miura)は乗越浄土しから千畳敷カールに下山した。

(注意1〜9は山田利之氏の現地指導を基に記述した。)