個人山行報告書
<日程> 2013/1/6
<山域>鈴鹿山系 御在所前尾根P7, 3ルンゼ(アイス)
<メンバー>田村、福田、鶴田、三浦

<コースタイム>
名古屋(5:20)鈴鹿スカイラ閉鎖ゲート前(6:30)前尾根P7(8:30):アイゼントレ 3ルンゼ(11:30):アイスクライミング3ルンゼから下山開始 (15:15) 下山完了駐車場(18:00)
下山は日没後。

話題1:御在所天気
冬型の気圧配置で濃尾平野は晴れて、朝は真っ青な快晴の空だった。
しかし午前10時頃から、下界は晴れているのに山頂は雲の中に入って小雪の所謂「御在所天気」になった。


前尾根P7の取り付き部分の岩壁には雪はなく、スタンスがはっきり見える
。しかしガバのホールドがあるはずの、岩の上部は冠雪してつかみ所がなくなている。
緩斜面の岩にあったはずの、スタンスもすべて雪に隠れて見えない。
夏場には傾斜が緩やかな岩肌には明確なスタンスが見えていたが、緩斜面には雪が積もり易いので急斜面よりもとらえどころがなくなって難しい。
雪を手で払って埋もれているスタンスを見つけ出してアイゼンの歯を乗せて登ることができた。

(余談:私のP7のアイゼントレ回想録)
私のP7のアイゼントレは計3回目である。初回は2012年10月7日(日曜)に伊藤聡さんのリードで登ろうとして、私はアイゼンから火花を散らしてテラス近くまで落下した。
ザイルの弾力性でぶら下がっただけで無傷だったけれども精魂も尽きてロアーダウンさせてもらって敗退した。
2回目は12月8日(土曜)に百武さんのリードで登らせてもらった。
トレーニングだから…と手袋を装着して登り始めたが、岩をしっかりつかめない恐怖を味わった。
途中で素手になって、必死で登り切った。登ることには成功したが、冷たい岩に素手でしがみついていたので手が真っ赤になって痛くなった。
3回目は12月23日(日曜)に終了点まで巻き道で登って、自分でトップロープをセットして、福田君に確保してもらいながら練習した。
初めて厚手の手袋を装着したまま登れるようになった。
続いて3本指のオーバーミトンを装着して登ろうとしたけれどもオーバーミトンがしっかりと手に馴染まない。
さらに悪いことに、じつはその日はP7に到達する前に、沢を渡るときに滑って転倒し、左手掌に表皮が剥離する負傷をしてしていた。
だんだん負傷した片手が痛くなって上半身の固定が難しくなってきた。
残念ながらオーバーミトンを装着した状態でのトライは敗退させてもらった。
3回目のアイゼントレは山口さんのリードでP7は登山者で順番待ちで混んでいたので抜かして、P6からP4までを練習した。
従って今回はP7のアイゼントレは3回目である。(P6からのアイゼントレを加算すればアイゼントレの合計は4回目になる。)
私は前回はトップロープでP7を登る手本(?)を福田君に見せることができた。
今回は福田君がP7をリードで登った。むしろ私が気後れして登り始めてすぐに悲鳴を上げた。
「もう駄目〜」と私が上に向かって叫ぶと、福田君は「登るしかな〜い。」とそっけなく返事するだけだ。
気を引き締めて、無理矢理に腕をクラックに突っ込んで握りこぶしを作って腕をぐっと回転させたたところ、そのクラックにしっかりと体が固定できる実感が湧いた。
「これが、ジャミング(フィスト)か!」と会得したときに不思議な喜びが湧いた。
足はアイゼンを装着しているのでジャミングはできない。安定したスタンスにアイゼンの歯を乗せるしかない。
しかし、どうしても屁っ放り腰になってスタンスを確認するのが難しい。
一旦決めたアイゼンを動かしたら落ちるだけだ。P7はわずか数mの落差である。
しかし初心者にとってスタンスを見極めて、そのまま静かに体重移動して確実に立ち上がる基本ムーブができるかどうかを試される素晴らしい試金石になっている印象である。

今回アイス用のモノポイントのアイゼンでP7を登れたことは嬉しい。
ただし、せっかくアイス用に購入した新品のアイゼンの鋭い歯先がすぐに減ってしまったことは残念だった。
モノポイントの先端は削れ易いので大切に使いたい。アイゼンはロッククライミング(ミックス)用と、アイスクライミング用に分けて使おうと思った。
ところでアイゼンは歯の形状にも特徴がある。二列目の歯が大きいアイゼンを岩場で使うと、アイゼンを水平に置いた場合に二列目の歯が岩に当たる。
この二列目の歯が岩に当たると、それが支点になって前歯を岩から引き抜いて、落下する可能性がある。
グリベル製エアーテックは二列目の歯が短いのでアイゼンを水平に置いても二列目の歯が岩に当たりにくい設計だ。
そういう意味でアルパインのロッククライミング用のアイゼンとして推薦されている理由がよく分かった。

後から到着した鶴田さんの7Pでのアイゼントレを見学してから、3ルンゼに移動して、アイスクライミングの練習をした。
田村さんが中央にある岩の終了点にザイルを張ってトップロープでの練習をすることになった。
福田さん、鶴田さん両人は完登した。私は数メートル登った所まで順調だった。
しかし重いアックスを振り上げて打ち込む繰り返しの姿勢が悪いらしく、私は腕が疲れてしまったので、途中で敗退することにした。
氷は透明で思った以上にしっかりしている。私はアイスアックスを打ち込むとはじき返されてしまうことが屢々あった。どうしてだろう?

話題2:アックスの研ぎ出し
私のアイスアックスは田村さんもPetzl NOMICで基本的には同じ形だが田村さんの所持品は、歯の上を研ぎ出しててある。
私のは新品のままである。試しに二つを比較して自分で氷に打ち込んでみると、田村さんの研ぎ出してあるアイスアックスは簡単にアイスに食んだ。
しかし私の新品のアイスアックスは刺さりが悪い。私は素人考えてで、新品の方が性能がいいだろう、と思っていたが、
「アイスアックスは研ぎ出してから使うものである。」と田村さんから教えて頂いた。
研ぎ出し方で氷への刺さり方がまったく違うのに驚いた。


課題3:アイススクリュー
ブラックダイアモンド製の新品のアイススクリューは初心者の私でも軽い力で簡単に氷に食ませることができた。
しかし古いアイススクリューは力を入れても、なかなか氷に食い込んで進まない。
持ってきた備品の中には整備不良で先端が曲がってしまっているものも混じっていた。
アイススクリューの先端は切り込みのナイフと考えた方がいい。ナイフの性能は研ぎ出しにかかっている。
アイスクライミングは道具の整備が非常に重要だと感じた。

話題4:8の字結び
8の字結びがきれいでない状態で荷重がかかると、結び目の交差付近だけが強くしまりやすく、ほどくのが困難になる。
今回トップロープで練習をした影響で8の字結びがほどきにくくなってしまった理由は、低温でザイルが固くなっていたことに加えて、
おそらく「きれいでない状態」の8の字結びだった可能性がある。(阿部亮樹著「イラスト クライミング」)


話題5:遭難事故のニアミス
今回の山行は「御在所」という馴染み深い場所だったので「パーティーを組む」という意識が乏しかった。
福田、鶴田、三浦の3名は御在所の前尾根や一の壁はよく知っていたが3ルンゼには行ったことがない。
ルートファインディングには若干不安があったので、暗黙のうちに田村さんに先頭を歩いて頂き、鶴田、三浦、福田の順番で登り始めた。
途中の危ない場所では、田村さんにザイルを出してもらっ場所があった。
氷が露出している急登の登り方は、田村さんに見本を見せてもらわないと怖い場所があった。
私はザッックからダブルアックスを取り出して、アイゼンをしっかり効かせて登り切った。
そこから3ルンゼまでの間はトレースがしっかりある雪斜面で、キックステップで登るだけだった。

 この簡単なの最期の雪斜面の登りで、遭難事故のニアミスが起こった。私のすぐ前を歩いていた鶴田さんが、遅れ始めた。
鶴田さんが田村さんから離れて休憩しつつ歩いている。
田村さんからどんどん離れそうになるので、私と福田さんは、鶴田さんを抜いてしまい、田村さんのすぐ後を追って登っていった。
その時から鶴田さんは最後尾を登る順番になった。その直後から鶴田さんの遅れが目立ち始めた。
目的地も近いはずだから、鶴田さんが多少遅れたとしても、目的地ですぐに動流できるだろうと安易に考えていた。
しかし、あっと言う間に10mぐらい離れた。その後、どんどん離れてしまったらしく振り返っても、鶴田さんの姿が見えなくなった。
ただ、こから3ルンゼまでわずか100 mぐらいしか離れていない。
3ルンゼのアイスゲレンデに田村、三浦、福田3名がほぼ同時に到着して、小雪が降る中で荷物を降ろして温かいお茶を魔法瓶から飲み、
行動食を食べてほっとしながら(10〜15分)鶴田さんの到着を待った。
鶴田さんはなかなか登ってこない。下の方から笛の音が聞こえる。「誰が何の為に鳴らしているのかな?」鶴田さんが鳴らしているとは思わなかった。
それにしても鶴田さんの到着が遅いので、田村さんが心配して下に降りていったところ、約50mぐらい下で鶴田さんが休憩してる姿を見つけて、連れてきた。
 到着した鶴田の顔が暗かった。「笛の音が聞こえませんでしたか?自分は、皆の姿が見えなくなって、不安になって笛で呼んでみたんです。
しかし笛を鳴らしても返事がないので、自分はルートを間違っていたかもしれない?と思い始め、引き返そうかと思った。
そこへ途中で抜いてきいた単独行のおじさんが後から登ってきて、3ルンゼへのルートで間違いないことが分かってホットした。
その登山者が通らなかったら、自分は一人で今きた道を下山しようと考えていた。」

話題5の反省:弱者をセカンドに立てる原則
鶴田さんが遅れ始めても、鶴田がセカンドのままで歩いていれば、田村さんが鶴田さんの遅れにすぐに気が付いてペースを落したはずだ。
しかし御在所のことだから「何とかなる」と皆が思った。
体力に自信がなくなると、たとえ目的地のすぐ近くでも疲労した当人は冷静な判断ができなくなる傾向がある。
鶴田さんは「皆を見失った」と思った時から不安になって「一人で下山しよう。」と考え始めたそうだ。
実際下山を始めていたら凍結している場所で滑落していた可能性すらある。
鶴田さんをおいてきぼりにして、小生は大反省をしている。


話題6:冬の手袋は毛糸に限る。
私は、モンベル製のアルパイングローブを使った。
この商品は「厚手のメリノウール製ライナーを使用し、冬山登山や長期縦走にも耐えうる高い保温性と機能性、耐久性を併せ持ったグローブです。」と宣伝されている。
ところが3ルンゼで長時間ビレーしている間に、手袋の手掌側に張ってある皮革が固く凍結してザイルを握りにくくなった。
非常に厳しい気象条件では皮革製の手袋はほとんど使いものにならなくなる危険性を感じた。

話題7:確保器の代用:カラビナを使ったハーフマスト結び
3ルンゼでビレー中に確保器で制動するザイルがいつもよりも滑り易い、と感じた。
よく観察すると、ザイルの表面に細かい氷が付いて下降器との摩擦係数が低下している可能性があった。
厳しい冬山の天候でザイルが固く凍ってしまい、下降器を通過させることが難しくなった場合には、
カラビナを使ってハーフマスト結び(イタリアンヒッチorムンターヒッチ)で代用する場面が出てくるだろう。
ただし、通常は確保器で制動するべきで、ビレーや懸垂にハーフマストと使うとザイルは激しくキンクするので避けた方がよいだろう。

話題8:最後の油断
いつものように下山は日没後になってしまい、ストック付いて最後まで転ばないように慎重に歩いていた。
ゲートを超えて駐車してある車が見えた瞬間に、氷に足を取らて転倒し、右膝をひねり腰を強打した。
「痛って〜!」。最後に安全だと思った瞬間の油断だった。

話題9:自動車のバッテリー
2台のうち1台の自動車のバッテリーが上がってしまい。ブースターコードを持参していたので助かった。


付録:笛による信号
冬山では風の音に消されて、声が届かないことが多い。笛を利用して通信することは理にかなっている。
しかしあらかじめ笛で鳴らす信号の「意味」を決めておかないと、今回のように「誰が何のために笛を鳴らしているのか?」理解できない。
チーム猫屋敷同士で意思疎通ができる最低限の「笛の合図」を決めておくと、いざという状況で役に立つかもしれない。

(余談)
私は学生時代に、北海道の大雪山で、悪天候の濃霧の中を歩いていた。
縦走路から離れた谷の方向から笛の音が聞こえてきたので、それに返事をするように自分も同じリズムで笛を鳴らしてみた。
すると相手も同じリズムでまた笛を鳴らして来た。私は面白っくなって暫く会話をするように同じリズムで笛を鳴らして遊んでいた。
目的地の野営スポットに付いてテントを張って夕食の準備をしていたら、
後から某大学のワンゲル部のパーティが到着して「笛で誘導して下さり、助かりました。私たちは、道に迷って藪漕ぎをして方角がわからなくて困っていたのです。」と言われた。
私はただ受け答えがが面白くて遊び半分に楽しんでいたのだが、それが人助けになるとは、言われてみて始めて気がついた。


猫語辞典(5種類):単純にオウム返しで呼応する言語体系の提案

  国際モールス信号
1. 呼び出し: だいじょうぶか?  「---」「---」「---」 O, O, O
応答:   だいじょうぶだよ。 「---」「---」「---」 S, S, S

2. 呼び出し: 迎えに来て! 「・・・」「・・・」「・・・」 S, S, S
応答:   迎えに行くぞ。 「・・・」「・・・」「・・・」 S, S, S

3. 呼び出し:  遭難した!! 「・・・」「---」「・・・」 S, O, S 

4. リード: 完了 「・-」 A 
セカンド:了解 「・-」 A

5. リード: 登って!  「・・」 I
    セカンド:登ります!  「・・」 I
 



(猫語創作の背景)
船舶又は航空機の緊急救助要請のモール信号

○ 遭難通信S, O, S 「・・・」「--- 」「・・・」 
重大かつ急迫の危険に陥った場合に遭難信号----SとOの信号は誰でも知っている。
O信号「---」は長音で安全確認信号として国際的に使われているTTT「-」「-」「-」と運用上は区別がつきません。
「大丈夫」「だ」という安全確認信号の意味で定義したので区別できなくても問題はない。
短く鋭い信号「・・・」は緊張感があるので、「迎えに来て欲しい」という救援を求める気持ちを込めて定義しました。
遭難信号のS,O,Sで受け答えすると、第三者が傍受した時に、2カ所で遭難事件が発生したという誤解を招くのでSOSをそのまま使うことは避けた。

○ 緊急通信X, X, X 「-・・-」「-・・-」「-・・-」
重大な危険の恐れのある場合の信号

○ 安全通信T, T, T 「-」「-」「-」
重大な危険を予防するための信号 (所謂霧笛)
(注)猫語の「大丈夫か?」「大丈夫だよ。」の O「- - -」と区別できないが、いずれの存在確認の意味の信号だから区別する必要性はない。

○ 一般的に使われているクレーンの補助信号など
☆ クレーン呼び出し音  「-」
☆ クレーン「巻き上げ」 「・・」
☆ バスの後退誘導 「・・」
☆ 「ワッショイ」 「・・」
☆ クレーン「降ろせー」 「・・・」
☆ クレーン「停止」 「・」
(注)猫語の「登って!」「登ります。」の「・・」の信号には、「巻き上げ」の意味や、バスの後退誘導合図で「ゆっくりと慎重に動く指示」と共通する意味合いがある。
聞き慣れた信号だ。