個人山行報告書
<日程> 2010/2/15~17
<山域> 南アルプス 甲斐駒ケ岳赤石沢奥壁
<メンバー> 青山、鈴木
正月合宿で登るはずだった奥壁中央稜は、予定日に二つ玉低気圧が直撃中で登攀キャンセルになった。資料と正月に偵察して得た情報としては
① 取り付きまでの八丈バンドのトラバースは足元から雪崩れる危険性が高い。
② 下部ピッチを登れば中間部より上は雪壁であり、下部ピッチを突破すれば事実上の完登。ただし、上部に1ピッチ4級(A0)の凹角があるので要注意。
③ 下部ピッチも要所にしっかりしたダケカンバが生えており、もし突破できなくても撤退は容易。
ということで、初日に8合目にBC設営、2日目にアタックして帰幕、3日目に下山。もし一日で抜けれなくても下部ピッチさえ抜けておけばあとは容易であり、最悪の場合ルート上でビバークしても3日目には稜線に抜けて下山できると考え計画した。
前の週は暖気が日本列島に入り、その後に降雪があったはずで、壁の状態が心配されたが、入山前日2/14(日)が冷えた晴れ。入山日もよく冷え込んで降雪は無しだったので、あとは2日目アタック日の天気がよければ好条件を得られると考えた。実際アタック日は晴れた。
2/15(月)曇りときどき晴れ
七丈小屋と8合目の間にBC設営。明日の予報は晴れ後くもり
2/16(火)晴れ 出発5:20~取り付き7:00~ビバーク地17:00
天気は晴れ。登れる可能性大と感じてヘッドランプを付けて出発。8合目付近で夜明け。奥壁は相変わらず雪が多くついている。八丈バンドのトラバースを開始する。ここは雪崩の危険があると前回感じ、すべてロープを出して通過するつもりだったが、斜面はよく締まっておりアックスとアイゼンの蹴り込みで快適に進めたのでロープは出さずに行く。中央稜取り付きはワイドクラックらしいが、雪で半分ぐらい埋まっていた。
1ピッチ目(Ⅴ-)=核心その1
右上する凹角からスタート。抜け口が被っている上に岩にベルグラが張り付いてホールドが無い。スカイフックをエッジに掛けてスタンスにし、クラックに詰まった氷をアックスで削って手袋ハンドジャム。右手のアックスをハング上の雪田に引っ掛けてハングを越す。あとはベルグラを叩き落としながらフェースを右上。プロテクションは残置ピトン2とナッツ3箇所。
2ピッチ目(Ⅲ)
正面のスラブに残置ピトンがあったが、アイゼンでは不可能。右上するバンドをたどると絶壁に阻まれたのでビレイ点まで一度もどり、左の草付ガリーへ。堅雪に覆われ、快適にダブルアックス。
3ピッチ目(Ⅱ~Ⅲ-)
できるだけスラブを避けて堅い雪壁・草付をダブルアックスで蛇行して繋いで行く。至極快適
4ピッチ目(Ⅳ-)
崩壊著しいミックス状フェース。階段状で見た目簡単だがプロテクションは出だしの効きの悪いピトンとナッツ、細いブッシュにタイオフ。岩が少々モロいので緊張する。
5ピッチ目(Ⅲ+)
草付から堅雪の詰まったチムニー状ガリーへ入り込む。ガリー側壁のクラックにナッツをセットできて面白い。ガリーを抜けると目の前に4inch幅(キャメロット#4サイズ)のオフウィズス(OW)があり、取り付いてみると強烈に難しく、ビレイヤーからも死角となっていて危険と思い、OW基部の残置ピトンとナッツでピッチを切る。
6ピッチ目(Ⅴ+~)=最大の核心、凍りついたOW
4ihch幅のOWが5~6mあり、その上はベルグラの張り付いたスラブ。OWの中も外もベルグラが張り付いてツルツル。ベルグラを落とすと細いクラック。ナッツを極めてスリングを垂らしてスタンスにし、右肩をOWに入れてアームバー。凍っているのでアームバーが甘い。右足ニージャムしてベルグラで狭まった部分に右手フィストジャム。左手アックスがOW上の遠い所にある堅雪の詰まった部分に極まると思ったが、そこだけモロく崩れて進退窮まる。肩を入れ替えたいがフィストジャムが下過ぎて無理。その体勢で20分は四苦八苦したか。息が荒くなり腹筋と大臀筋がパンプ。いま落ちるとコウヘイよりも下まで落ちる羽目に。コウヘイも思わず「ガンバ!」。頑張るぜ~!上半身を大きく捻って左腕ガストンを探ると極まる所があり、その勢いで肩の入れ替えに成功。するとアラ不思議、目の前に残置ピトンが!クリップして歓喜の絶叫。ここにピトン打った先達よありがとう!そこから先はベルグラの張り付いたスラブをそ~~っと崩さないように登ってなんとかビレイ解除。ウンウン唸りながらテンションの山を築きつつフォローしてくるコウヘイであった。ここで14:00。下部は突破し、後は簡単なはずなので行ける所まで行き、抜け切れなかったらビバークと決める
7~10ピッチ目ぐらい(Ⅱ~Ⅲ)
快適に雪壁ダブルアックス+木登り。上部4級の凹角は雪に埋まっていつのまにか通過した模様。もう稜線は近いはずなのになかなか終わらないのでヤキモキしてくる。2回ロープが絡まって時間をロス。う~焦る。新人だからあたり前だが、コウヘイはロープを解きながらビレイすることに慣れていない
11ピッチ目(Ⅱ)
この辺りで日没直前、ヘッドランプを順備してスタート。いきなりロープが絡まる。巨大で顕著なコーナーに突き当たったら右にトラバースして回りこむと稜線に出たっぽいが、本当に稜線なのか、まだ先があるのか、稜線だとして夜間に黒戸尾根を安全に下降できるのかと色々考えた結果はやはりビバーク。17:30
クライムダウンしてピッチ出だしの巨大コーナーの基部を踏み固めて整地すると2畳ほどの平らなテラスができた。このコーナーは被っているし、良い風避けにもなった。ピトン・ナッツを決めるクラックが無かったので、ピッケル2本をテラスの両端に突き刺して踏み固め、その2点にロープをフィックスし、セルフビレイを取ってビバーク体勢。幸いにも無風。甲府の夜景が綺麗。夜景はいいから朝日をくれ。夜中から明け方にかけて雲少なく、放射冷却で寒かった。靴を脱いでマッサージしたり体をさすったりで夜は更けていった。しかしコウヘイはわずか2回目の本チャンでいきなりビバークする羽目になり、ちょっと凄いことだと思う。御免ヨ?日の出とともに出発しようとしたら、夜中マッサージのために脱いでいたコウヘイの靴がカチカチに凍っており(予備くつ下、スタッフバッグを履いて完全防備)、全然履けないハプニング。踏んだり叩いたりメタに火をつけて暖めたりして皮をほぐして履けるまで2時間弱かかってしまった!これは良い教訓になった。
アックスビレイしてもらい早速出発するとやはり稜線だった・・・!9.5合目ぐらいに飛び出した。頂上まで往復。正月と比べたら雪量のせいで全然様子が違う黒戸尾根上部を下る。テントに転がり込み、昨夜と今朝食べるはずだったカレーうどん+高野豆腐+コーンポタージュを食べて昼寝して重た過ぎる体を引きずるようにして下山。本当にやりきった感。もう甲斐駒なんて二度と来んぞ!