春山合宿報告書 その4

<日程> 2009/5/3~7
<山域> 後立山 鹿島槍ヶ岳 北壁主稜・天狗尾根
<メンバー> 山口、田村

<行動記録>
5月2日(土)
(移動日)名古屋19:40⇒信濃大町23:30

久々の電車でのアプローチ。名古屋駅出発前から、前夜祭開始。駅弁&ビール、最高ですな~。
信濃大町駅前の自転車置き場にて、オープンビバーク。お酒のお陰で、爆睡。


5月3日(日) 曇
信濃大町6:30⇒大谷原7:00→荒沢出会8:30→天狗尾根取付9:00→稜線上10:00→第一クーロワール14:00→第二クーロワール15:30→天狗の鼻T.S.16:30

本格的な合宿スタートの日。朝から快調なキジで気分が良い。タクシーで大谷原へ(5,300円也)。
念のため、タクシーの連絡先を貰っておく(後から使うことになるのだが)。
大谷原からは、大川沢沿いにテコテコ歩く。左岸側(登山道)を行ったが、途中で崩壊していた。
右岸側(林道)が正解か?どちらから行っても、数回の渡渉が必要。渡渉と言っても、全て飛び石で濡れる事無く通過可能。
後続パーティ(5人組)は飛び石に2人が失敗してた。水修行、ご苦労様。
天狗尾根取付は、赤札が2つほどあって分かり易い。踏み跡も、マァマァ明瞭。でも、かなり急なので、慎重に登る。
途中、休憩可能な箇所は無し。重荷がツライぜ。ここまでは、ほとんど雪が無い。そんなモンなのかな?稜上に出てからは、雪とブッシュを辿る。
稜線が細くなってきた所で、大きな新しい足跡発見。人間じゃ無いよな・・・もしかして・・・「たかさん、この足跡って・・・?」「熊だーーー!!!」。
熊さんも天狗尾根を登っているようだ。ラッセルありがとう。しかーし!先の方で、ブッシュが「ガサッ!」・・・すぐそこにいらっしゃるようだ。
追いついてもしゃーないので、大休止。30分ほどして歩き出すと、影も形も無くて心底ホッとする。
第一クーロワール・第二クーロワールは、ロープ無しで、サッサと通過。
第二クーロワールはシュルンドが大きく開いていて、傾斜も強かったので、メンバー・状況次第でロープを使った方が良いかも。
細くて、シュルンドが所々開いている稜線を、慎重に登っていくと、天狗の鼻到着。あー疲れた。
目の前に、鹿島槍北壁がドーン!左手には荒沢奥壁がドドーン!素晴らしいロケーション。明日の天気を祈りつつ、早めに就寝。

5月4日(月) 曇
天狗の鼻T.S.4:30→天狗のコル4:45→カクネ里6:30/7:00→主稜取付8:30→下部岩壁(核心)終了13:30→主稜終了点20:30/21:00→天狗の鼻T.S.23:30

ルート図通りだとアプローチは①天狗のコルからトラバース・②天狗の鼻から東へ戻ってルンゼを下降しカクネ里 の二通り。
北壁全体の概念を把握するため、カクネ里に下る事にするが、②は少し遠回りなので、たかさん曰く「天狗のコルからカクネ里に下降した方が早そう」って事で、天狗のコルからルンゼを下る。
最初から、かなり急な雪壁のクライムダウン。たかさんが切ってくれたステップを頼りに下る。
最後は岩壁に行く手を阻まれ、2ピッチ懸垂下降し、やっとこさカクネ里到着。大休止し、北壁全体の概念を確認する。
主稜は、明瞭。氷のリボンも、辛うじて繋がっているようだ。
しっかり休憩し、一気に取付へ。
デブリを越え、急な雪壁のクールワールを登るが、上からの雪崩が怖い。まだ時間的には大丈夫なはずと信じて、先を急ぐ。
本来の取付のスノーコルを通り過ぎ、雪壁が急になったところで、ザイルを出す。(全ピッチたかさんリード)

1P 急なミックス~雪稜 :雪がグサグサで、不安定。早速、かなりハードなクライミング。ダケカンバを掴んで攀じ登る。
ランナウトキングのタカさんも、少し苦労していた。

2P 雪稜~雪壁トラバース :簡単。下部岩壁(核心)基部まで

3P 急なミックス~氷壁(80°程度):左上にかかった、今にも崩れそうなシャンデリアにビビリながら、深々とアックスをさして、ずり上がる。
氷壁は、ダブルアックスで快適。雪崩の通り道でもあるので、急いで駆け上がる。

4P かなり脆くて急な草付トラバース :本来は①氷壁直上または②草付岩壁直上。
しかし①は雪崩の危険絶大(実際、大きなのが通って行った)、②は雪が無くてボロボロなので、北壁主稜のリッジへトラバース。
物凄く脆いし、急(80°位)だし、ルートを通しての核心ピッチだった。アイゼン外して素手でクライミング。
あまりの厳しさに、たかさんが、雄叫びを上げて野生に返っていた。
フォローも落ちれないので、極限に集中してムーブを組み立てて、何とか越える。

5P 脆い垂直のリッジ~急な草付~雪稜 :左右ともに切れ落ちた、垂直のリッジ(4級程度?)をこなし、途中でアイゼンを再度装着。
雪とブッシュのミックスをこなす。意外と難しく、なかなかスピードが上がらない。

6P 雪稜~ブッシュ :核心最後のピッチ。雪・岩・ハイマツのミックスリッジを越えると、本来の通常ルートの雪壁に合流。

7~9P 雪壁 :簡単。しかし、雪の状態が悪い。一歩ごとに、腿まで埋まり、表面の雪が雪崩れていく。

10P~12P ブッシュ~雪稜 :雪壁の先に、かなり脆そうな岩場が出現。難しそうなので、ブッシュのリッジへ上がる。
かなり急なハイマツで、雪もグサグサ。予想以上に悪いが、ハイマツを掴んで強引に体をずり上げて行く。
雪稜に出たところで「稜線が見えた!」との声。かなり喜ぶが、実際に見ると、頂上稜線は、遥か彼方に霞んでいる・・・ちょっぴり凹む。

13P~15P 雪壁~雪のコル :ブッシュを過ぎると、再び雪壁。
傾斜は緩く、簡単だが、相変わらず雪の状態が悪い。日も傾き、徐々に寒くなってきた。カッパを着る。

16P~17P 雪壁トラバース~雪壁~草付 :今にも雪崩れそうな雪壁を渡り終えると、さらに傾斜が落ちてきた。
最後の斜面に入ったようだ。疲労も極限、身体に鞭打って、駆け上がる。

18P~19P(最終ピッチ) 草付~露岩~雪壁 :ヘッドランプ着用。傾斜も緩く、簡単。
最後のピッチ、たかさんから「先行く?」と言ってくれたが、そんな力は残ってない。
最後の雪壁をヨタヨタと登り詰めると・・・ついに着いた!北壁終了点だ!!!
ねぎらいの言葉を掛け合う。しかし、まだ長い下降が待っている。
東尾根と天狗尾根の分岐は、暗いと確かに分かりにくい。しかし、たかさんは何度も登っているので問題無し。
雪壁・上部岩壁・雪壁と、3箇所で懸垂下降を交え、慎重に下る。天狗のコルに着く頃には、完全にフラフラ。
天狗の鼻への登りは、四つんばいになってカメ登り。身体の中のエネルギー全てを出し尽くし、天狗の鼻到着。
ここで初めて、ガッチリ握手!!!人生で最もハードな一日が、無事に終わった。
ずっとリードし、下降もサポートしてくれたたかさんに、本当に感謝。


5月5日(火) 曇のち雨
前日がハードだったので、沈殿。昼前まで熟睡。
朝の6時ごろ、3日に会った5人パーティが登っていった。スピードが遅過ぎるけど、大丈夫かな?予備日がたくさんあるのかな?
昼過ぎに、北壁を見上げる。登った実感と喜びと達成感が、ジワジワと湧いてきた。

5月6日(水) 雨
朝から雨。沈殿。
夕方頃、ラジオの電池が、寿命を迎える。代えの電池を忘れた・・・

5月7日(木) 雨
今日も朝から雨。沈殿。
沈殿3連荘に、うんざり。腰が痛い。ヘリが飛んでいる音が聞こえる。遭難か?
翌日に、赤岩尾根から下山する事を決める。メールで上記5人パーティの遭難を知る。

5月8日(金) 曇 時々 雨
天狗の鼻6:00→上部岩壁8:00→北峰頂上10:00/10:30→南峰頂上11:00/11:30→布引山ケルン12:00→冷池山荘13:00→高千穂平15:00→大谷原17:15/17:30⇒信濃大町18:00/19:00⇒名古屋22:30

久々の朝日を拝み、気分良く出発。行動できる事に、身体の筋肉達が喜びを隠せない。
スキップして歩きたいくらいだ。荷物が重くて、そんな事は出来ないけど。危険だし。
天気が良かったのは一瞬で、すぐにガスガスになってきた。3日間降り続いた雨で、シュルンドが大きくなり、雪も不安定になっている。
上部岩壁も、ロープを出さずに通過。過ぎてしまえば何て事は無いけど、取付で見あげた時は「ロープ欲しいな~」って心の中で思っていた。
本日の核心は、北峰への登り。雪の状態が良ければ全く問題ないし、技術的にも問題ないけれど、雪の状態が悪く、視界も5m程度。
右手は雪庇、左手は雪崩れる寸前の斜面なので、微妙な位置取りをキープして進む。
すぐ右側の斜面にピシッっと亀裂が走り、ヒヤッとするが、何とか持ってくれたようだ。休憩なんてもってのほか、北峰までノンストップで突っ走る。
北峰で、ケルンにタバコをささげ、ゆっくり一休み。

南峰の直下では、富山県警山岳警備隊の方々が、遭難救助活動中。滑落者はまだ見つかってないとの事。
雪の状態が悪く、捜索が難航しているようだ。右手に雪崩れた跡があったので、それに巻き込まれたのかな~と想像しつつ、慎重に行動する。
南峰には、すぐに到着。安全地帯に着いた安心感を胸に、ゆっくりお茶を飲み、記念撮影。布引山のケルンにもタバコを捧げ、下山。
赤岩尾根上部は、雪の状態があまりに悪く、トラバースを断念。稜線上から1P懸垂下降し、一般ルートに合流。雪の付き方が中途半端で、何箇所か少し緊張しつつ、慎重に下山。意外と疲れるな・・・。最後はデブリを伝って荒沢を渡り、林道に合流。トコトコと歩いて、大谷原到着。
もちろん、信濃大町駅と電車の中で、盛大に打ち上げをしたのは、言うまでも無いか。
自分としては、とても充実した春合宿となりました。沈殿3連荘は余分だったけど。。